「結構結構!男子たるもの
「結構結構!男子たるもの、腕白なくらいが丁度良い。じゃあな。鈴木君、勇坊を頼むよ」
「は、はい!」
桜花は反射的に背筋を伸ばした。そして二人が去るのを見届けると、ホッと胸を撫で下ろす。
その後、二人が向かった先はある家だった。
桜花はその後、五条を経て清水界隈まで辿り着いた。植髮效果
「確か
こっち
」
直感を信じて歩みを進めていくと見覚えがある景色が広がる。
そして、桜花はあの時の茶屋を見付けると、深呼吸を一つして暖簾を潜った。
「御越しやす。あんさんは
!この間はどうも御世話さんどした。どうぞ、此方へ掛けとくれやす」
女性は桜花の顔を認めるなり、満面の笑みを浮かべて駆け寄る。
桜花は促されるままに長椅子へと腰掛けた。
「お、お団子
二串貰えませんか」
向けられる笑みが眩しくて桜花は誤魔化すように注文をする。
女性は頷くと奥へ行き、すぐに茶と団子を持ってきた。
桜花の他に客の姿は無い。
「お待ちどぉさんどす。
あの後、壬生浪に追っ掛けられはったんやろ?どもないどした
?」
女性は桜花の隣に座ると、眉を下げて問い掛けた。
「捕まったん?怪我とかしてへん
?」
まるで問い詰めるようなそれに桜花は苦笑いしながら首を横に振る。
「無事ですよ。ええと、あの場は逃げ切りましたが、後日捕まってしまいました」
驚いた表情を見せる彼女を見てしかし、と言葉を紡いだ。
「身の潔白は証明出来ましたし、皆さんが思うほど新撰組は恐ろしい集団ではありませんでしたよ。それに、彼らは行く宛の無い私を置いてくれました」
桜花は笑みを浮かべると、茶を啜る。
「えっ、それって隊士にならはったちゅうことどすか?」
女性は更に驚愕の表情を浮かべた。
「いえ、違いますよ。言うなれば使用人です。詳しくは、新撰組が屯所にしている八木家というところの使用人です」
「そうなんや
。難しいことはよう分からへんけれど、無事で安心しおした」
女性は安堵の息を吐く。その姿すら可愛らしい。
その時、暖簾を潜って一人の男性が入ってきた。
見たところ齢二十といったところだ。
「御越しやす、って何や。弥八郎やないの
」
反射的に立ち上がったが、露骨に眉を顰めると座り直す。
「何やとはご挨拶やな。お花が暇しとるやろ思てわざわざ来たったんやないか」
弥八郎という青年は頭を掻くと長椅子にどっかりと座った。
勇坊は胸を大きく張った。その光景にまさと桜花は微笑ましそうに笑う。
勇坊は何故二人が笑っているのか分からずに首を傾げていた。
まさから二人分の手拭いや着替え、糠袋を受け取り、桶に入れた桜花は勇坊と手を繋いで家を出る。
この時代では糠袋で身体を洗っていた。
「おう、勇坊。何処へ行くんだい」
門を出て、少し歩いたところで近藤と土方に出会した。
「ん、俺らはな~、今から湯浴みしに行くんやで!」
「そうか。ならばしっかり、この泥を落として来るんだぞ」
土方はフッと笑い、勇坊の頭を軽く撫でる。「別に誰も頼んどらへんし
。今、ウチはこん人とお話しとるの。弥八郎、はよ店戻ったらどうなん。お父ちゃん困らはるやろ」
そのように花は口を曲げて言う。
「い、今は休憩中や!それに誰やねんコイツ
」
弥八郎は焦ったように言い返し、鋭い視線を桜花に向けた。
その視線には敵意がたっぷりと込められており、居心地の悪さと共に弥八郎が持つ、花への感情を悟る。
「ウチの恩人や!ほら、こないだ荒れくれ者が来たとき、ウチを守ってくれはった
。せやからコイツなんて言わんといて」